卒業アルバムの写真を見返していると、クラスメイトの田中の顔だけが真っ白に写っている。
高校三年の春、田中は突然転校してきた。理由は聞いても曖昧で、「家の事情で」としか言わなかった。
「写真、嫌いなんだ」
修学旅行でも文化祭でも、カメラを向けると必ず顔を逸らした。みんなで記念撮影をする時も、いつの間にかフレームから外れていた。
「病気なの?」と聞いた女子もいたが、田中は笑って首を振った。
「ただの体質だよ。昔からなんだ」
不思議な奴だったが、成績優秀で面倒見もよく、すぐにクラスの人気者になった。特に数学は天才的で、大学受験の問題も軽々と解いてしまう。
「将来は研究者になりたいんだ」
そう言っていた田中の目は、いつも遠くを見つめているようだった。
卒業式の日、みんなで最後の写真を撮った。やはり田中の顔だけが白く光って写らない。
「気にするな。慣れてるから」
田中は苦笑いを浮かべて言った。
それから十年。同期会の案内状が届いた。出席者名簿を見ると、田中の名前だけがない。
幹事の佐藤に電話で聞いてみた。
「田中?ああ、連絡取れないんだ。住所も分からないし」
「そうか。元気でやってるかな」
「田中って誰だっけ?」
佐藤の声が急に冷たくなった。
「ほら、転校生の。数学が得意だった」
「ごめん、覚えてないや。うちのクラスに転校生なんていたかな」
他の友人に電話しても、みんな同じ反応だった。田中の記憶がない、と言うのだ。
慌てて卒業アルバムを開く。名簿を確認する。
四十三人のクラスメイト全員の名前が並んでいる。
田中の名前は、最初からそこになかった。