三十年ぶりの同期会で、田中は懐かしい顔ぶれを見回した。
「佐藤、相変わらず若いな」
「田中こそ。まだ現役バリバリか?」
佐藤の笑顔は昔と変わらない。隣の鈴木も、少し太ったが元気そうだ。
「山田は来てないのか」田中が尋ねた。
「ああ、彼は忙しくてな。でも元気にやってるよ」佐藤が答える。
乾杯の音頭を取りながら、田中は胸の奥の違和感を押し殺した。なぜか皆、自分の話ばかりで、田中のことを聞いてこない。
「そういえば、田中の奥さんはどうしてる?」鈴木が突然口にした。
「ああ、元気だよ。君たちは?」
佐藤と鈴木は顔を見合わせた。何か言いたげな表情だったが、すぐに話題は他に移った。
二次会のカラオケで、田中は十八番の歌を歌った。しかし誰も合いの手を入れない。静まり返った室内で、田中の声だけが響く。
「みんな、つまらなそうだな」
「いや、そんなことは」佐藤が慌てたように言った。「ただ、久しぶりだから」
解散間際、鈴木が呟いた。
「田中、また今度会おう」
「ああ、楽しかった」
田中が振り返ると、佐藤と鈴木は肩を寄せ合って何かひそひそと話していた。
翌朝、田中の妻が新聞を持って居間に入ってきた。
「お疲れさま。昨夜はどうだった?」
「ああ、懐かしかったよ。佐藤も鈴木も変わってなくて」
妻は新聞を開きながら、小さくため息をついた。
「あなたって人は」
その時、新聞の社会面に小さな記事が目に留まった。『同期会帰りの会社員二名、事故死』。
佐藤と鈴木の名前が並んでいた。