法廷の証言台に立つ三人は、それぞれ異なる真実を語った。
まず田中が口を開いた。
「あの日の午後三時、被告は確かに現場にいました。私は向かいのカフェから、彼が赤いコートを着て歩いているのを見たんです」
彼の声は震えていた。十五年の付き合いがある友人を告発するのは辛いことだろう。
続いて佐藤が立った。
「いえ、それは間違いです。その時刻、被告は私と一緒に図書館にいました。借りた本のレシートもあります」
彼女は几帳面にハンドバッグから紙片を取り出した。時刻は確かに午後三時五分を示している。
最後に山田が証言した。
「お二人とも記憶違いでしょう。被告は午後二時半には既に電車に乗って隣町へ向かいました。私が駅まで送ったのですから間違いありません」
彼の証言は淀みなく、自信に満ちていた。
判事は困惑した表情を浮かべた。三つの証言はすべて食い違っている。しかも全員が被告の無実を主張している点では一致していた。
「では被告人、何か言うことはありますか」
被告は静かに立ち上がった。
「三人とも正しいことを言っています。ただし、私は三つ子なんです」
廷内がざわめいた。検察官は慌てて書類をめくり始めた。
被告は続けた。
「事件当日、長男の私は電車で隣町へ。次男は図書館で佐藤さんと。そして三男が現場近くを歩いていました」
判事が書記官に何かを確認している間、被告は小さくつぶやいた。
「問題は、どの兄弟が実際に事件を起こしたか、私にも分からないことです」