証明写真機の前で、田中は三度目のシャッターを切った。

 今度こそ満足のいく一枚が撮れたはずだ。面接用の履歴書に貼る大切な写真である。機械の奥でプリンターが静かに作動する音が聞こえる。

 「あと二分でお受け取りいただけます」

 機械の女性音声が告げた。田中は待つ間、鏡で髪型を整えた。

 やがて写真が排出口に落ちる音がした。四枚一組の証明写真を手に取り、田中は息を飲んだ。

 写りが素晴らしい。髪の毛一本一本まで鮮明で、肌の質感も自然だ。何より表情が良い。自信に満ちた微笑みが、見る者に好印象を与えるだろう。

 「これなら絶対に合格する」

 田中は満足げに写真を財布にしまった。

 翌日、面接会場で履歴書を提出する。人事担当者が写真に目を止めた。

 「立派な写真ですね」

 「ありがとうございます」

 面接は順調に進んだ。予想通り、一週間後に合格通知が届く。

 新しい職場での初日。田中は意気揚々と出社した。同僚たちが次々と挨拶に来る。

 しかし、皆の表情がどこか困惑している。

 「履歴書の写真、とても印象的でしたよ」

 先輩社員がそう言いながら、奇妙な笑みを浮かべた。

 昼休み、田中は人事部の前を通りかかった。ドアが少し開いており、中の会話が聞こえてくる。

 「あの新人の写真、本当に不気味だったわね」

 「ええ。まるで生気がないというか」

 田中は急いでその場を離れた。家に帰ると、すぐに鏡を見る。普通の顔だ。写真も改めて確認したが、やはり良い出来映えに見える。

 翌朝、田中は別の証明写真機で試しに一枚撮ってみた。

 出来上がった写真を見て、彼は震え上がった。そこに写っていたのは、血の気が失せた青白い顔。虚ろな目。まさに死人のような表情だった。

 あの証明写真機の前に戻ると、小さな張り紙があった。

 『故障のため使用中止。なお、昨日までに撮影された写真については、現像時に色調補正が正常に作動しておりませんでした』

ホラー

完璧な証明写真

黒木透

2026-04-25

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