今朝も七時きっかりに、査定官が我が家を訪れた。

 「おはようございます、田中様」

 いつもの若い男性だ。白い制服に身を包み、手には電子端末を持っている。

 「リビングから拝見させていただきます」

 査定官は淡々と室内を見回し、端末に数値を入力していく。ソファの位置、テーブルの上の雑誌、観葉植物の葉の枚数まで。すべてが記録される。

 「奥様の朝食の品数は?」

 「いつも通り、パンと卵とサラダです」

 「承知いたしました」

 査定が終わると、男性は私に一枚の紙を差し出した。

 「本日の生活水準点数は八十二点です。おめでとうございます、平均を上回っております」

 私は安堵した。平均を下回れば減給、大幅に下回れば降格だ。

 「ありがとうございます」

 査定官が帰ると、妻が台所から顔を出した。

 「今日は何点だった?」

 「八十二点」

 「良かったわね。昨日テレビを長時間見すぎたから心配だったの」

 そうだ。娯楽時間の超過は減点対象になる。読書時間が短すぎても同様だ。

 昼休み、同僚の山田が声をかけてきた。

 「田中さん、うちの査定官がね、最近様子がおかしいんですよ」

 「どんな風に?」

 「なんだか動きがぎこちなくて。それに、いつも同じ質問を繰り返すんです」

 私の家の査定官は問題ない。きわめて効率的で正確だ。

 夕方、帰宅すると妻が困った顔をしていた。

 「査定官の方から連絡があったの。明日の朝、メンテナンスのため交代になるって」

 翌朝、新しい査定官がやってきた。年配の女性だった。

 「失礼いたします」

 彼女は丁寧に室内を調べ始めた。そして、リビングの隅で足を止めた。

 「こちらの充電器は何でしょうか?」

 私は凍りついた。それは前任の査定官が毎朝、こっそりと使っていたものだった。

ディストピア

査定

水島透

2026-04-24

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査定 - ショートショート | 福神漬出版