刑事の辻村は定年を三日後に控えていた。

 今日も未解決事件のファイルを整理していると、二十年前の強盗殺人事件の資料に目が留まった。被害者は質屋の老店主。犯人は逃走中に交通事故で死亡したが、盗まれた現金三百万円は未回収のままだった。

 「懐かしいな、この事件」

 同僚の田中が覗き込んだ。

 「君も捜査に参加してたっけ?」

 「ええ、新人の頃でした。現場検証で初めて死体を見て、吐きそうになったのを覚えてます」

 辻村は苦笑した。自分も新人時代は同じだった。

 「犯人の自宅も一緒に調べましたよね。あの狭いアパートの六畳間」

 「そうそう。畳の下まで調べたが、金は見つからなかった」

 田中が資料をめくる。

 「この犯人、交通事故の前に誰かに会ってたんでしたっけ?」

 「ああ、元同僚だよ。飲み屋で一時間ほど話してた。でも金の話は出なかったと証言してる」

 辻村は写真を見つめた。犯人の遺体、大破した軽自動車、現場に散乱したビール缶。

 「この元同僚って人、今も覚えてます?」

 「もちろん。田中巡査、君だよ」

 田中の手が一瞬止まった。

 「そうでした。すっかり忘れてました」

 辻村は立ち上がった。

 「明日、あの質屋の跡地の近くを通るから、久しぶりに見てこようかな」

 「一緒に行きましょうか?」

 「いや、一人で十分だ」

 翌日、辻村は質屋の跡地を訪れた。今はコンビニになっている。

 帰り道、ふと思い立って田中の家に立ち寄った。

 玄関先で田中の妻が洗濯物を干している。

 「お疲れ様です」

 「これはどうも。田中さんはお留守ですか?」

 「はい、銀行に行ってまして」

 辻村は何気なく庭を見回した。立派な石灯籠、手入れの行き届いた植木。

 「いいお庭ですね。田中さんの趣味ですか?」

 「ええ。二十年前に急に庭いじりに目覚めて」

 妻が微笑む。

 「あの石灯籠も、その頃に自分で埋めたんです」

 辻村の足が止まった。

 石灯籠を見つめながら、彼はゆっくりと手帳を取り出した。

 時効まで、あと一日。

ミステリー

時効

瀬戸内雅彦

2026-04-23

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時効 - ショートショート | 福神漬出版