クラスメイト全員が嫌いだった。
卒業式の朝、僕は最後の決心をして登校した。靴箱の前で立ち止まる。昨日の放課後、こっそり仕込んだ手紙がちゃんと残っている。
「今日は来ないと思った」
振り返ると田中が立っていた。相変わらず人を見下したような顔をしている。
「なんで?」
「だって君、クラスで浮いてるじゃん。卒業式なんてどうでもいいでしょ」
僕は黙って上履きに履き替えた。
教室に入ると、みんなが騒いでいる。最後の日だというのに、誰も僕に声をかけない。三年間、ずっとこうだった。
「はい、静かに」
担任の山田先生が入ってきた。先生だけは僕に優しかった。時々、放課後に声をかけてくれた。
「卒業アルバムを配ります」
アルバムが回ってきた。表紙には「翔んでいこう未来へ」と書いてある。僕たちが決めたクラスのスローガンだ。僕だけは反対したけれど。
パラパラとページをめくる。修学旅行、体育祭、文化祭。僕が写っている写真は三枚だけだった。しかも全部、端っこの方で小さく。
「寄せ書きの時間です」
みんなが立ち上がってアルバムを交換し始めた。僕のところには誰も来ない。
十分ほど経って、山田先生が僕のアルバムを持ってきた。
「みんな、書いてくれたよ」
開いてみると、確かに寄せ書きのページが埋まっている。「がんばって」「元気でね」「また会おう」。どれも義務的な一言ばかり。
田中の文字を見つけた。「君みたいな人も必要だと思う。ありがとう」
偽善的な言葉に胸が熱くなった。怒りで、ではない。
卒業式が終わった。教室で最後のホームルームが始まる。
「では、最後に一人ずつ挨拶を」
順番に前に出て話をしていく。僕の番が回ってきた。
教壇に立つ。三十九人の顔が僕を見ている。
「僕は、このクラスが大嫌いでした」
教室がざわついた。山田先生が立ち上がりかけたが、僕は続けた。
「でも、今日気づいたんです。嫌いだったのは、みんなじゃない。嫌われている自分でした」
靴箱に仕込んだ手紙のことを思い出した。
席に戻りながら、僕は呟いた。
「遺書、破り捨てなきゃ」