裁判所の証言台で、田中は震え声で語った。
「午後八時頃、被告が被害者を刺すのを確かに見ました」
検察官が身を乗り出す。
「距離はどれくらいでしたか?」
「約二十メートルです。街灯の明かりで、はっきりと」
弁護士が立ち上がった。
「証人は眼鏡をかけていますね?」
田中は慌てて眼鏡のフレームに触れた。
「はい、普段から」
「事件当夜もかけていましたか?」
「もちろんです」
弁護士は資料を確認する。
「証人の視力は裸眼で〇・一以下。眼鏡なしでは二十メートル先の人物の判別は不可能ですね?」
「ですから眼鏡をかけていたと」
「では、なぜ事件現場で眼鏡が割れていたのでしょう?」
法廷がざわめいた。弁護士が証拠品の破損した眼鏡を掲げる。
田中の顔が青ざめた。
「それは…転んだ時に…」
「事件を目撃した後に、ですか?」
「そう、その通りです」
弁護士は薄く笑った。
「鑑識の報告では、この眼鏡が割れたのは午後七時四十分頃。ガラスの飛散状況から特定されています」
田中は口を開いたまま固まった。
裁判長が静かに告げる。
「証人、偽証の疑いで別途捜査が必要ですね」
田中は震える手で眼鏡を外した。法廷の全員がぼんやりとした影に見える。
しかし彼には、あの夜犯人の顔が確かに見えていた。