検査の時間になると、私たちは必ず列に並ぶ。
今日も白衣の職員が機械を持ってやってきた。順番を待つ間、隣の山田さんが小声でつぶやく。
「最近、検査に引っかかる人が多いねえ」
私は頷きながら、胸ポケットの小瓶を確認した。透明な液体が半分ほど残っている。
「次の方」
職員が私を呼んだ。機械の前に立つと、赤いランプが点滅する。
「少し数値が高いですね。でも基準値内です」
職員は記録用紙に何かを書き込んだ。私はほっと息をついた。
列の最後尾にいた佐藤さんが検査台に向かう。機械が唸りをあげ、今度は黄色いランプが激しく明滅した。
「佐藤さん、ちょっと」
職員が佐藤さんの肩に手を置く。佐藤さんの顔が青ざめた。
「でも、私は何も悪いことはしていません」
「数値は正直です。こちらへどうぞ」
佐藤さんは別室へ連れて行かれた。もう戻ってこないだろう。
私は胸ポケットの小瓶をそっと撫でた。この感情抑制剤のおかげで、今日も検査をパスできた。
帰り道、山田さんが振り返る。
「佐藤さん、最近よく笑ってたからなあ」
私は無表情で頷いた。笑うことも、泣くことも、怒ることも、この国では犯罪なのだ。
家に帰ると、娘が宿題をしていた。算数のドリルに向かう小さな背中を見ていると、胸の奥がざわめいた。
危険な兆候だった。私は急いで小瓶の蓋を開ける。
「お父さん、この問題わからない」
娘が振り向いて微笑んだ。その瞬間、私の手が震えた。
小瓶が床に落ちて割れる音が響いた。
明日の検査まで、あと十二時間。