娘の絵日記に描かれた友達は、いつも顔が黒く塗りつぶされていた。

 「どうして顔を描かないの?」と尋ねると、美琴は首を振る。「ちゃんと描いてるよ。ママには見えないの?」

 そんなやりとりが続いて三か月。今日も美琴は一人で裏山の森へ向かった。

 心配になって後を追うと、木陰で美琴が誰かと話している。

 「今日もママは見えなかったよ」

 「そうか。でも約束だからな」

 低い男の声が聞こえる。しかし相手の姿は見えない。

 「美琴!」

 私の声に振り返った娘の顔は困惑に満ちていた。

 「ママ、なんで来ちゃったの?約束を破っちゃダメだって」

 「誰と話してたの?」

 「お友達だよ。ほら、そこに」

 美琴が指差す方向には何もない。

 その夜、夫に相談した。

 「子供の想像の友達なんて珍しくないよ。心配しすぎだ」

 しかし翌朝、美琴の部屋に血まみれの包丁があった。

 震える手で警察に電話する間、美琴は平然と朝食を食べていた。

 「美琴、これは?」

 「約束を守ったの。お友達が、ママが見えるようになるためには、パパを消さなきゃダメだって」

 私は慌てて夫の部屋に駆け込んだ。

 ベッドは空だった。血痕もない。

 「美琴、パパは?」

 娘は不思議そうに首をかしげる。

 「パパって誰?」

 その時、鏡に映った自分の顔を見て理解した。

 私の顔も、真っ黒く塗りつぶされていた。

ダークファンタジー

約束の森

森川真紀

2026-04-16

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約束の森 - ショートショート | 福神漬出版