母の遺品整理で見つけた赤い靴を、七歳の娘が気に入った。

 「これ、履いてもいい?」

 「お婆ちゃんの靴よ。サイズが合うかしら」

 不思議なことに、母の靴は娘の足にぴったりだった。その日から、娘は赤い靴を履いて出かけるようになった。

 「今日はどこに行くの?」と聞くと、「お友達のところ」と答える。帰宅時間も早く、以前より活発になったようで安心していた。

 ところが、近所の人から妙な話を聞いた。

 「お宅の娘さん、最近よく一人で墓地にいるのね」

 「墓地?」

 「ええ。誰かとお話ししているみたいだけど、相手が見えないの」

 慌てて娘を問い詰めると、困ったような顔をした。

 「お婆ちゃんと遊んでるの。お婆ちゃん、寂しいって言うから」

 背筋が凍った。母は娘が三歳の時に亡くなっている。面識はないはずだった。

 「お婆ちゃんって、どんな人?」

 「優しくて、いつも赤い靴を履いてるの。でもね」娘は小首を傾げた。「今日、お婆ちゃんが変なこと言ったの」

 「何て?」

 「『もうすぐ一緒に行けるね』って」

 その夜、娘は高熱を出した。医者を呼んだが原因不明。うわごとで「お婆ちゃん、まだ行きたくない」と繰り返している。

 私は赤い靴を隠そうとしたが、靴は娘の足から離れなかった。まるで縫い付けられているように。

 翌朝、娘の熱は下がっていた。しかし靴を見ると、昨日より一回り小さくなっていた。

 「痛くない?」

 娘は首を振った。「大丈夫。でも、お婆ちゃんがもっと近くに来てるの」

 その時、鏡に映った娘の後ろに、赤い靴を履いた女性の影がちらりと見えた。

 母だった。そして、その表情は生前とは違っていた。

 靴は日に日に小さくなり、娘の足を締め付けている。娘の顔は青白くなり、歩き方もおかしくなった。

 「お母さん」娘が振り返る。「お婆ちゃんが、一緒に踊ろうって」

 娘の足元を見て、私は理解した。赤い靴は娘を連れて行こうとしているのだ。

 踊り続けて、死ぬまで。

ダークファンタジー

赤い靴

黒井千鶴

2026-04-11

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赤い靴 - ショートショート | 福神漬出版