妻の葬式から一週間が過ぎた。

 部屋を片付けながら、田中は妻の机の引き出しから見慣れない家計簿を見つけた。表紙には「特別会計」と書かれている。

 「特別会計?」

 田中は首をかしげながらページをめくった。妻が毎月つけていた普通の家計簿とは別物のようだった。

 最初のページを開くと、三年前の日付から記録が始まっていた。

 「4月15日 田中への小遣い増額要求への対応費 5000円」

 「4月22日 田中の飲み会遅刻への怒り演技費 3000円」

 田中は眉をひそめた。何これは、と呟きながらさらにページをめくる。

 「5月3日 田中の誕生日プレゼント選定費 8000円」

 「5月10日 田中への愛情表現演技費 2000円」

 心臓がドキドキし始めた。演技費という言葉が気になった。

 「6月1日 田中への嫉妬表現費 4000円」

 「6月18日 田中の浮気疑惑調査費 15000円」

 手が震えてきた。浮気なんてしたことがないのに、なぜ調査費?

 ページをめくるたびに、不可解な支出項目が続いた。どれも自分に関するものばかりだった。

 最後のページに近づくと、先月の記録があった。

 「2月14日 田中への最終プレゼント準備費 50000円」

 「2月20日 田中への最後の愛情表現演技費 10000円」

 「2月28日 田中への別れの準備費 100000円」

 田中の手が止まった。別れの準備費?

 最後のページをめくると、そこには一行だけメモが書かれていた。

 妻の几帳面な文字で、こう記されている。

 「依頼完了。田中への三年間の妻役演技、本日をもって終了」

日常系

家計簿

水島雅人

2026-04-09

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家計簿 - ショートショート | 福神漬出版