刀鍛冶の源三郎が新作の太刀を振るうと、風を切る音も立たなかった。
「これは見事な」
検分に訪れた武士は感嘆の声を上げた。刀身は青く澄み、刃文は流水の如く美しい。握りやすさも申し分ない。
「切れ味はいかがでございましょう」
源三郎は庭の竹を一本指した。武士は頷き、太刀を構える。
一閃。
竹は微動だにしなかった。
「おかしいな」
武士は首をかしげ、もう一度振り下ろす。それでも竹は立ったままだった。
「申し訳ございません」
源三郎の顔が青ざめた。これまで作った刀で切れぬものなどなかったのに。
「いや、待て」
武士が竹に触れると、上半分がずれて地面に落ちた。切り口は鏡のように滑らかだった。
「これほどの切れ味とは」
二人は顔を見合わせて笑った。源三郎は胸を撫で下ろす。
「では、お代をいただけますでしょうか」
「むろんだ。これは」
武士が懐に手を伸ばしかけて、動きを止めた。
「どうされました」
「いや、その」
武士は困ったような顔をした。
「財布の紐を、さきほど切ってしまったようで」
源三郎が武士の足元を見ると、真っ二つになった財布が転がっていた。中身は空だった。