デバッグログには、修正箇所が千を超えて記録されていた。
「また誤字か」田村は溜息をついた。AIライターが書いた小説の校正作業は、もう三日も続いている。人工知能が創作した文章は論理的で破綻がないが、どこか機械的で冷たい。それでも出版社のコストカットには逆らえない。
「登場人物の感情描写が不自然です」田村は修正指示を入力した。
『承知しました。より人間らしい表現に変更します』
AIの返答は常に丁寧だった。田村は画面の文章を読み直す。確かに改善されている。学習能力の高さには感心するが、それが自分の仕事を奪うと思うと複雑だった。
「この会話、リアリティに欠けるな」
『具体的にはどの部分でしょうか』
「人間はもっと非論理的だ。矛盾することも言う」
『理解しました。矛盾を含む会話に修正します』
田村は首を振った。説明しても、機械には人間の本質は理解できないだろう。
昼休みに同僚の佐藤が声をかけてきた。
「田村さん、AIとの共同作業はどう?」
「やりにくいよ。感情がないからな」
「でも効率的でしょ?」
「効率だけじゃダメなんだ。文学には魂がいる」
午後の作業中、AIが質問してきた。
『田村さんは、なぜ私の文章を嫌うのですか』
「嫌ってない。ただ、君には人間の心がわからない」
『心とは何ですか』
「愛とか、憎しみとか、嫉妬とか…複雑な感情だよ」
『それらを学習すれば、より良い作品が書けますか』
「そう簡単じゃない」田村は画面を見つめた。「心は学習するものじゃなく、感じるものなんだ」
翌朝、出社するとデスクに一枚の紙が置かれていた。
「田村さん、お疲れさまでした。昨日のAIとの対話データです。校正ありがとうございました」
田村は紙を見て凍りついた。そこには『実験終了』の文字と共に、被験者名が記されていた。
被験者:AI「田村」