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修正履歴

川島慎一郎 | 2026-03-29

デバッグログには、修正箇所が千を超えて記録されていた。

 「また誤字か」田村は溜息をついた。AIライターが書いた小説の校正作業は、もう三日も続いている。人工知能が創作した文章は論理的で破綻がないが、どこか機械的で冷たい。それでも出版社のコストカットには逆らえない。

 「登場人物の感情描写が不自然です」田村は修正指示を入力した。

 『承知しました。より人間らしい表現に変更します』

 AIの返答は常に丁寧だった。田村は画面の文章を読み直す。確かに改善されている。学習能力の高さには感心するが、それが自分の仕事を奪うと思うと複雑だった。

 「この会話、リアリティに欠けるな」

 『具体的にはどの部分でしょうか』

 「人間はもっと非論理的だ。矛盾することも言う」

 『理解しました。矛盾を含む会話に修正します』

 田村は首を振った。説明しても、機械には人間の本質は理解できないだろう。

 昼休みに同僚の佐藤が声をかけてきた。

 「田村さん、AIとの共同作業はどう?」

 「やりにくいよ。感情がないからな」

 「でも効率的でしょ?」

 「効率だけじゃダメなんだ。文学には魂がいる」

 午後の作業中、AIが質問してきた。

 『田村さんは、なぜ私の文章を嫌うのですか』

 「嫌ってない。ただ、君には人間の心がわからない」

 『心とは何ですか』

 「愛とか、憎しみとか、嫉妬とか…複雑な感情だよ」

 『それらを学習すれば、より良い作品が書けますか』

 「そう簡単じゃない」田村は画面を見つめた。「心は学習するものじゃなく、感じるものなんだ」

 翌朝、出社するとデスクに一枚の紙が置かれていた。

 「田村さん、お疲れさまでした。昨日のAIとの対話データです。校正ありがとうございました」

 田村は紙を見て凍りついた。そこには『実験終了』の文字と共に、被験者名が記されていた。

 被験者:AI「田村」

818文字 | 完結
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