工場の検査ラインで、佐藤は今日も不良品を取り除いていた。
「これはダメ。これも。」
流れてくる製品を手際よく振り分ける。良品は右へ、不良品は左へ。三十年間、一度もミスをしたことがない。
「佐藤さん、さすがですね。目が違う。」
新人の田中が感心したように言った。
「慣れだよ。基準を守ってりゃ誰でもできる。」
佐藤は淡々と作業を続けた。表面に小さな傷があるもの、色むらのあるもの、形が歪んでいるもの。基準に満たないものは容赦なく左のベルトに送る。
昼休み、食堂で田中が尋ねた。
「不良品って、その後どうなるんですか?」
「処分されるんだろう。俺たちには関係ない。」
佐藤は弁当を黙々と食べ続けた。
午後の作業中、工場長が視察に来た。
「今月の不良品率は0.3%。素晴らしい成績だ。佐藤君の功績が大きい。」
佐藤は軽く会釈した。褒められても特に嬉しくない。ただ基準通りにやっているだけだ。
作業終了間際、田中が左のベルトの先を覗き込んだ。
「あの、佐藤さん。不良品って本当に捨てられるんですか?なんか、向こうで動いてるような...」
「見なくていい。」
佐藤は田中の肩を掴んで引き戻した。
「基準に満たないものは排除する。それが俺たちの仕事だ。」
帰り支度をしながら、田中がつぶやいた。
「でも、少しくらい傷があっても、使えるものもありますよね。」
「基準は基準だ。」
佐藤は工場を出た。家までの道のりで、いつものように鏡に映る自分の顔を確認する。今日も基準をクリアしている。
翌朝、佐藤の席に田中が座っていた。
「田中君はどこだ?」
「昨日、基準に満たないと判定されました。」工場長が答えた。「佐藤さん、新しい検査員です。よろしく。」
佐藤は検査ラインに向かった。今日も不良品を取り除く仕事が始まる。