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冒険

最後の峠

望月隼人 | 2026-03-26

GPSが示す目的地まで、残り五百メートル。田村は汗を拭いながら急斜面を見上げた。

 「本当にここに宝があるんですか」

 案内人の老人は振り返ることなく答えた。

 「ああ、間違いない。わしの祖父が隠したんだ」

 三日前、田村は骨董店でこの老人と出会った。戦時中に祖父が山に埋めた金塊の在り処を記した地図を、老人は千万円で売ると言った。半信半疑だったが、衛星写真で確認すると確かに人工的な窪みがある。田村は地図を購入し、案内も頼んだ。

 「あと少しだ。頑張れ」

 老人は七十を超えているはずなのに、足取りは軽快だった。田村の方がよほど息を切らしている。

 頂上付近の岩陰で、老人が立ち止まった。

 「ここだ」

 指差した場所には、確かに不自然な石の配置があった。田村は持参したスコップで掘り始める。三十分ほどで、金属音が響いた。

 「あった!」

 現れたのは古い軍用の箱だった。錆びているが、中身は無事のようだ。田村は興奮して箱を持ち上げた。

 「重い。本当に金塊が入ってる」

 老人はにっこりと笑った。

 「良かった。それじゃあ、わしはこれで失礼するよ」

 「え?一緒に下山しませんか」

 「いや、わしはもう少しここにいる。気をつけて帰りなさい」

 田村は老人に感謝を述べ、重い箱を背負って下山を始めた。途中、携帯電話の電波が回復したので、興奮して友人に電話をかけた。

 「すごいよ、本物だった。これで借金も返せる」

 ふと気になって振り返ると、山頂にいるはずの老人の姿は見えなかった。

 麓に着いた田村は、すぐに箱を開けた。中には確かに金の延べ棒が入っていたが、どこか新しい。よく見ると、製造年月日の刻印がある。

 「令和五年」

 田村は愕然とした。スマートフォンで調べると、この金塊は最新の偽造品として警察が注意喚起しているものだった。

 そのとき、背後で声がした。

 「お疲れさまでした」

 振り返ると、さっきまで老人だった男が立っていた。しかし今度は警察手帳を掲げている。

 「詐欺および盗品故買の現行犯で逮捕します」

 田村には理解できなかった。

 「でも、僕は被害者です。騙されたんです」

 警察官は首を振った。

 「あなたが骨董店で購入したのは、盗まれた重要文化財の地図でした。我々は三ヶ月前からあなたをマークしていたんです」

 田村の手から、古い地図がひらりと舞い落ちた。

994文字 | 完結
最後の峠 - ショートショート | 福神漬出版