← ショートショート一覧
青春

卒業式の日に

水野透子 | 2026-03-25

高校最後の日、僕の机の中に手紙が入っていた。

 「図書室で待ってます。佐藤より」

 佐藤美咲。三年間同じクラスだったが、まともに話したことはない。地味で目立たない子だった。

 図書室に向かう途中、友人の田中に呼び止められた。

 「おい、お前のこと好きだった子がいるって知ってたか?」

 「誰だよ」

 「教えない。でも意外な子だぞ」

 図書室は薄暗く、佐藤が窓際の席に座っていた。振り返った顔は、いつもより化粧が濃い。

 「お疲れさま。三年間」

 彼女はそう言って微笑んだ。

 「ああ、お疲れさま」

 「実は、ずっと言いたいことがあったの」

 僕の胸が高鳴る。まさか告白だろうか。

 「私、あなたのことを三年間観察してた」

 観察?

 「どういう意味?」

 「毎日あなたの行動を記録してたの。何時に登校して、誰と話して、お昼は何を食べて」

 背筋が寒くなった。

 「なんで?」

 「あなたって、自分では気づいてないでしょうけど、すごく規則正しいのね。月曜日は必ずカレーパン、火曜日はメロンパン。友達との会話も、だいたいパターンが決まってる」

 佐藤は小さなノートを取り出した。

 「これ、三年分の記録」

 ページをめくると、僕の日常が細かく書かれている。恐ろしいほど正確に。

 「君は一体...」

 「心理学部に進学するの。人間観察が趣味なの。あなたは最高のサンプルだった」

 立ち上がろうとした僕を、佐藤が引き止めた。

 「待って。最後にひとつだけ」

 「なに?」

 「今日のあなたの行動、予想通りよ」

 ノートの最後のページに、今日の予定が書かれていた。「午後三時、図書室で私と会話。動揺して逃げ出そうとする」

 僕は凍りついた。

 「でもね」佐藤が続けた。「一つだけ、三年間で予想できなかったことがあるの」

 「それは?」

 佐藤の表情が、初めて本当の笑顔になった。

 「私があなたを好きになってしまったこと」

808文字 | 完結
卒業式の日に - ショートショート | 福神漬出版