高校最後の日、僕の机の中に手紙が入っていた。
「図書室で待ってます。佐藤より」
佐藤美咲。三年間同じクラスだったが、まともに話したことはない。地味で目立たない子だった。
図書室に向かう途中、友人の田中に呼び止められた。
「おい、お前のこと好きだった子がいるって知ってたか?」
「誰だよ」
「教えない。でも意外な子だぞ」
図書室は薄暗く、佐藤が窓際の席に座っていた。振り返った顔は、いつもより化粧が濃い。
「お疲れさま。三年間」
彼女はそう言って微笑んだ。
「ああ、お疲れさま」
「実は、ずっと言いたいことがあったの」
僕の胸が高鳴る。まさか告白だろうか。
「私、あなたのことを三年間観察してた」
観察?
「どういう意味?」
「毎日あなたの行動を記録してたの。何時に登校して、誰と話して、お昼は何を食べて」
背筋が寒くなった。
「なんで?」
「あなたって、自分では気づいてないでしょうけど、すごく規則正しいのね。月曜日は必ずカレーパン、火曜日はメロンパン。友達との会話も、だいたいパターンが決まってる」
佐藤は小さなノートを取り出した。
「これ、三年分の記録」
ページをめくると、僕の日常が細かく書かれている。恐ろしいほど正確に。
「君は一体...」
「心理学部に進学するの。人間観察が趣味なの。あなたは最高のサンプルだった」
立ち上がろうとした僕を、佐藤が引き止めた。
「待って。最後にひとつだけ」
「なに?」
「今日のあなたの行動、予想通りよ」
ノートの最後のページに、今日の予定が書かれていた。「午後三時、図書室で私と会話。動揺して逃げ出そうとする」
僕は凍りついた。
「でもね」佐藤が続けた。「一つだけ、三年間で予想できなかったことがあるの」
「それは?」
佐藤の表情が、初めて本当の笑顔になった。
「私があなたを好きになってしまったこと」