探偵の佐藤は現場で不可解な状況に直面していた。被害者の書斎で発見された拳銃に、犯人の指紋がべったりと付着している。
「こんなに明確な証拠は珍しいですね」刑事の田中が言った。
「ああ、あまりにも完璧すぎる」佐藤は眉をひそめた。「普通なら手袋をするか、最低でも拭き取るはずだ」
容疑者の山田は取り調べで完全に否認していた。アリバイも曖昧で、動機も十分にある。それなのに、なぜこれほど決定的な証拠を残すのか。
「初犯だから慌てたんでしょう」田中は簡潔に結論づけた。
だが佐藤には腑に落ちない点があった。拳銃の持ち方が不自然なのだ。右利きの山田なのに、指紋は左手のものが多い。しかも引き金に人差し指の跡がない。
「田中さん、この指紋を採取したのは誰ですか?」
「鑑識の新人、橋本です。彼は非常に優秀で、現場保存も完璧でした」
佐藤は橋本の履歴を調べた。転職してきたばかりで、前職は印刷会社。そして驚くべき事実が判明した。橋本の妻は三年前、山田の経営する会社で過労死していた。
翌日、橋本を呼び出した佐藤は静かに尋ねた。
「山田さんの指紋は、いつ採取したのですか?」
橋本の顔が青ざめた。「何を言っているんですか。現場で採取したに決まってるじゃないですか」
「印刷会社にいた人間なら、指紋の転写など朝飯前でしょうね」
観念した橋本は全てを白状した。山田を社会的に抹殺するため、精巧に証拠を捏造したのだと。
「しかし」佐藤は首を振った。「あなたは知らなかったようですね」
橋本は困惑した顔で佐藤を見つめた。
「山田さんは昨夜、本当に人を殺していました」