救援信号が響く司令室の中で、蒼太は静かに立ち上がった。画面に映し出された座標は、銀河系の辺境にある未知の星系を示している。
「この信号、ただの救援要請じゃないな」ケイが端末を操作しながら呟いた。「感情エネルギーの波長が混在している。まるで複数の文明が同時に助けを求めているみたいだ」
ヴォイドが深くうなずく。「私にも感じられる。絶望と希望が渦巻いている。彼らは何かに追い詰められている」
ルナは蒼太の袖をそっと引いた。「蒼太、行くのね」
「ああ」蒼太は迷わず答えた。「配達屋の使命だ。誰かが助けを求めているなら、俺たちが駆けつける」
その時、司令室の窓の外に奇跡のような光景が広がった。流星群が宇宙ステーションの周りを舞い踊るように流れていく。まるで宇宙そのものが彼らの決意を祝福しているかのようだった。
「きれい」ルナが息を呑んだ。「まるで星たちが歌っているみたい」
蒼太はルナの手を取る。「ルナ、少し外に出ないか」
二人は展望デッキに向かった。透明なドームの下、無数の星々が瞬いている。流星が一筋また一筋と夜空を彩り、まるで天の川が踊っているようだった。
「蒼太」ルナが振り返る。「この前、アリアのことを話してくれた時、私、少し怖かったの」
蒼太は驚いた表情を見せる。第8話でのアリアとの別れについて、蒼太は数日前にルナに打ち明けていた。人を愛するということの切なさと美しさについて。
「アリアを愛していた君が、私のことも同じようにいつか忘れてしまうんじゃないかって。人工生命体の私に、永遠なんてあるのかなって」
蒼太はルナの頬にそっと手を添えた。「ルナ、俺がアリアを愛したのは確かだ。でも君への気持ちはそれとは違う。アリアとの恋は俺を成長させてくれた。そして今、俺は君を愛している。それは過去を否定するものじゃない。全てが今この瞬間に繋がっているんだ」
流星がひときわ大きく瞬いた。
「俺たちは明日、未知の星系に旅立つ。何が待っているかわからない。でも」蒼太はルナの両手を取る。「だからこそ今、君に伝えたい。この星降る夜に約束したい」
ルナの瞳に涙が浮かんだ。人工生命体でありながら、彼女の感情は純粋に輝いている。
「俺は君を愛している。君が人工生命体だから、人間だからということじゃない。君がルナだから愛している。これから俺たちは宇宙中に愛を届ける旅に出る。その旅路で、どんなに困難なことがあっても、君と一緒なら乗り越えられる」
「蒼太...」
「ルナ、俺と一緒に来てくれるか。永遠に」
ルナは微笑みながらうなずいた。「私も蒼太を愛してる。人間の感情を理解したくて蒼太の配達に同行し始めたけれど、今は違う。蒼太と一緒にいることが、私の存在意義なの」
二人は抱き合った。その瞬間、周囲の感情エネルギーが美しい光となって舞い上がる。愛の光だった。
「約束して」ルナが囁く。「どんなに離れていても、必ず帰ってくると」
「約束する」蒼太は力強く答える。「そして君も約束してくれ。俺がいなくても、君は君らしく輝き続けると」
「約束する」
流星群は最高潮に達していた。まるで宇宙全体が二人の愛を祝福しているかのように。
その時、司令室からケイの声が響いた。「蒼太、ルナ!大変だ!」
二人は急いで司令室に戻る。画面には信じられない光景が映し出されていた。
「救援信号の発信源、座標が移動している」ケイの声は震えていた。「しかも、こちらに向かっている。到着予定時刻は72時間後」
ヴォイドが厳しい表情で呟く。「逃げているのではない。何かから逃れながら、同時に我々に助けを求めているのだ」
「何かって?」ルナが不安そうに尋ねる。
画面の奥に巨大な影が映った。それは明らかに人工的な構造物だった。しかし、その周囲を包む暗いエネルギーは、これまで彼らが経験したどの感情エネルギーとも異なっていた。
「これは...」蒼太が息を呑む。
ケイの端末が警告音を発した。「感情エネルギーの分析結果が出た。これは恐怖でも憎悪でもない。もっと根源的な何か...存在そのものを否定する力だ」
司令室に重い沈黙が落ちた。
蒼太はルナの手を握りしめる。つい先ほど永遠の愛を誓い合ったばかりなのに、その愛を試すような試練が早くも現れた。
「みんな」蒼太が口を開く。「俺たちが築こうとしている愛の配達ネットワーク、その最初の大きな試練が来たのかもしれない」
ルナが微笑む。「大丈夫。私たちには愛がある。今夜誓った永遠の愛が」
ヴォイドも力強くうなずく。「憎悪から愛へと生まれ変わった私が言おう。愛は必ず憎悪を超える。そして存在を否定する力さえも」
ケイがキーボードを叩く音が響く。「よし、迎撃準備だ。逃げてくる文明を保護し、追ってくる脅威に立ち向かう。愛の配達屋の最初の大仕事だな」
窓の外では流星群がまだ続いていた。星降る夜に誓った愛が、これから宇宙規模の戦いの中で試されることになる。
蒼太とルナは手を取り合い、遥か彼方の宇宙を見つめた。72時間後、彼らの愛と、宇宙の存在そのものを脅かす未知の力との対決が始まろうとしていた。